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福岡地方裁判所 昭和35年(行)5号 判決 1960年9月22日

原告 川原力子 外二名

被告 福岡県知事・小倉市西北部第三土地区画整理組合

主文

被告小倉市西北部第三土地区画整理組合が、昭和三五年三月一三日、組合総会の表決によりなした換地処分および特別処分(昭和三五年三月三〇日福岡県知事認可、同月三一日福岡県告示第二五九号により告示)は無効であることを確認する。

原告らの被告福岡県知事に対する訴を却下する。

訴訟費用は、原告らと被告小倉市西北部第三土地区画整理組合との間において生じた分は同被告の負担とし、原告らと被告福岡県知事との間において生じた分は全部原告らの負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告福岡県知事が被告小倉市西北部第三土地区画整理組合の換地処分および特別処分につきなした昭和三五年三月三〇日附認可はこれを取消す。

二、被告小倉市西北部第三土地区画整理組合が昭和三五年三月一三日、組合総会の表決によりなした換地処分および特別処分は無効であることを確認する。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決を求める。

第二、請求原因

一、原告川原カ子は、別紙第一目録中第五番の土地を除く二八筆の土地および第二目録記載の土地を所有している。(ただし第五番の土地を除く第一目録記載の土地は川原和吉名義である。)原告川原和子、同川原新一郎は、別紙第一目録中第五番の土地を両名にて共有している。

被告小倉市西北部第三土地区画整理組合(以下被告組合と略称する)は、昭和一五年二月二日、当時の都市計画法(大正八年四月五日法律第三六号)第一二条に基き前記原告ら所有地を含む肩書住所地一帯の地区(以下整理施行地区と略称する)の土地区画整理事業を行うために設立された土地区画整理組合である。

二、被告組合は、昭和三五年三月一三日、組合総会を開き、本換地決定ならびに換地清算金決定の件を審議し可決した。しかして右組合総会の表決による換地処分ならびに特別処分は都市計画法第一二条第二項により準用の耕地整理法第三〇条によつて、昭和三五年三月三〇日附をもつて福岡県知事の認可を得、右認可は同月三一日附福岡県告示第二五九号をもつて告示された。

三、しかし本件整理施行地区内の土地は右処分時に未だ整地工事が完了していない。しかして耕地整理法第三一条は、換地処分は整理施行地の全部に付工事完了した後に非されば之をなすことを得ずと規定しているから本件換地処分ならびに特別処分は右規定に違反するところ、右瑕疵は重大且つ明白な瑕疵であるから右処分は無効である。

四、よつて右無効の換地処分ならびに特別処分に対して被告福岡県知事のなした認可も違法である。

よつて原告らは、被告組合に対し、本件換地処分ならびに特別処分の無効確認を求めると共に、被告福岡県知事に対し、右処分認可の取消を求める。

しかして被告福岡県知事の右処分認可の取消を求める訴は抗告訴訟であるから、原則として訴願の裁決を経て訴を提起すべきであるが、原告らが福岡県知事に対し、昭和三四年一一月五日、本件換地処分に先き立つ仮換地処分についてなした訴願に対しても、又、昭和三五年三月二四日、本件換地処分についてなした異議申立に対しても、いずれも被告福岡県知事はなんらの裁決をしないで今日に至つているので、右本件処分の認可に対し訴願をしても早急の裁決を得られる見込みがないところ、一方、本件整理地区内の土地は整地工事完了の分より逐次引渡がなされ、引渡を受けたものは、建築に着手していくので、本件訴訟が時機を失すると、仮に原告らが勝訴しても現状回復に莫大な費用を要するから、右のような著しい損害を避けるため訴願の裁決を経ないで本件訴訟を提起する。

第三、被告の答弁

一、原告らの請求はいずれも棄却する、訴訟費用は原告らの負担とする、との判決を求める。

二、原告ら主張事実中、別紙第一目録(第五番の土地を除く)、同第二目録記載の土地が原告川原カ子の所有であり(ただし第五審の土地を除く第一目録記載の土地は川原和吉名義)、第一目録記載の土地中第五番の土地が原告川原和子、同川原新一郎の共有であること、被告組合が原告ら主張のような目的でその主張の日時に設立されたこと、昭和三五年三月一三日、被告組合は組合総会を開き本換地決定ならびに換地清算金決定の件を審議可決したこと、右処分は昭和三五年三月三〇日附で被告福岡県知事の認可を得、右認可は同月三一日附で告示されたことはいずれも認める。

三、原告ら主張のその余の事実を否認する。

四、(一)原告らは、本件換地処分が耕地整理法第三一条に違反する旨主張するが、次の理由により、本件換地処分は何等違法ではない。

すなわち、右規定は換地処分の合理的運営の便宜を目的として技術的面より整地工事の完了を必要とする趣旨を規定したものであるから、整地後の土地の価値が整地工事の完了をまたなくても明確である宅地の造成を目的とする土地区画整理においては、耕地整理における程、右規定の重要性はないし、又同条は同条但書により組合規約によつてその適用を排除し得るものであるから、強行規定或いは効力規定ではない。

そして被告組合は、昭和三五年三月三一日をもつて解散すべき事情にあり、当時急速に事業を逐行しなければならない状態にあつたので、解散組合は、その清算事務として残工事をなし得る旨の建設省の通達によつて、前記法条の整地工事完了の意義は緩和されたものであるが、右整地工事は当時その大半が完了し、残余の工事も近々裡に完了することが明白であつたことにより結局前記法条にいう整地工事完了の状態にあつたものである。

(二)仮に当時整地工事未完了であつたとしても、前記法条は強行規定或いは効力規定ではないこと、前述のとおりであるから、その違反は本件換地処分を無効とするほど重大なものではない。

(三)仮に右の主張が容れられないとしても、本件口頭弁論終結時には既に整地工事が完了しているのであるから、それにより本件換地処分の瑕疵は治癒されたものである。

第四、(証拠省略)

理由

原告らがその主張のように別紙目録記載の土地の各所有者であり、被告組合が右土地を含む本件整理施行地区の土地区画整理を行う組合であること、昭和三五年三月一三日、被告組合は組合総会を開いて本換地決定ならびに換地清算金決定の件を審議可決したこと、被告知事は昭和三五年三月三〇日付で右処分を認可したこと、右認可は同月三一日附福岡県告示第二五九号をもつて告示されたことは当事者間に争がない。

しかして、土地区画整理組合のなす本換地決定ならびに換地清算決定(以下単に換地処分と略称する)が行政処分であつて、右処分に対してその違法を理由として行政訴訟を提起し得るものと解すべきであるが、土地区画整理組合が施行する換地処分は、組合総会の表決により成立し、知事の認可を得、知事の告示によつてその効力を発生するという段階的な一連の手続を経てなされるから、そのうちのどの手続を把えて行政訴訟の対象とすべきかは問題である。

しかして、組合総会の表決は、前記一連の手続の中間段階の行為ではあるが換地処分手続の中核をなし、組合総会の表決によつて換地処分は実質的に定まること、従つてその段階において右整理施行地区の組合員の法律上の地位に影響を及ぼす高度の蓋然性あるものといい得ること、そのため耕地整理法も特に右表決に対し異議という不服申立手続を設けていること等の理由によつて、右組合総会の表決を行政訴訟の対象とすべき行政処分と解すべきである。

次に、原告らは知事の認可に対してもその取消を求めているので、右認可が行政訴訟の対象となる行政処分であるかどうかについて考えるに換地処分の主体は土地区画整理組合であつて組合が行政処分をなす行政庁の地位にあり、知事はそれに対する監督機関的立場にあり、従つて右認可は組合の行政処分に対する行政機関相互間の内部的監督的行為にすぎないから行政訴訟の対象となる行政処分とはみられないとの見解もあるが、右認可が行政機関相互間の監督目的のみの行為とみるべき明文法規はないし、耕地整理法第一七条は、右認可を告示することにより右告示の日より換地は従前の土地とみなされ換地交付の効力を生ずる旨規定していることに鑑み、右認可は、組合総会の表決による換地処分を補充してその上法律の効力を完成せしめる行為として国民の権利義務に直接法律上の影響を及ぼす行為であるから、行政訴訟の対象となる行政処分であると解すべきである。

ところで、原告らは、同一事由に基き、被告組合の組合総会の表決による換地処分の無効確認に併せて、被告知事の右換地処分の認可の取消をも請求している。組合の表決も知事の認可も共に行政訴訟の対象となる行政処分であること前述の如くであるが、原告らは、同一事由に基いて、二回の訴を提起する法律上の利益をもたないものというべきである。けだし、整理施行地区の整地工事未完了を事由として組合総会の表決の無効確認を求める訴と知事の認可の取消を求める訴とは、訴訟物を異にし、従つて二重訴訟の関係に立つものではないと解すべきであるが、各処分に共通する実体上の違法事由をもつて右組合の表決なり或いは知事の認可なりのどちらか一の効力を否定する旨の裁判所の判断は、行政事件訴訟特例法第一二条により関係の行政庁を拘束し、他の被告たる行政庁は判決の趣旨に副うような措置を採らざるを得ないこととなるからである。しかして、認可手続それ自体について固有の違法事由の主張がない本件においては、組合総会の表決が行政処分として行政訴訟の対象となり得ると解したと同一の理由により、組合総会の表決の無効を主張する訴について判断するのが争の抜本的解決をもたらすものと解して、被告組合に対する訴はその利益ありと認め、被告知事に対する訴はその利益がないものと認めてこれを却下する。

次に、被告組合の組合総会の表決によつてなされた換地処分の無効確認を求める訴について、原告らが訴の利益を有する範囲は、原告らの従前の所有地に関する範囲に止まるものではなく、本件換地処分全体に及ぶものと解すべきである。それは、換地処分は整理施行地区について総合的に計画を樹立して土地の区画形質の変更ならびに交換分合を行うものであつて、その処分は個別的に各土地毎に独立して指定されると解すべきではなく、一施行地区毎に一体として指定され、従つて全体が一個の処分として成立すると解されるところ、右地区内に従前土地を有した原告は、整理施行後の右地区内のいずれかの土地部分について換地の指定を受けるかまたは清算金の交付を受ける地位を有するのであるが、具体的に換地として指定を受ける現実の土地の位置、形状、地積(また換地を与えることなく清算金の交付を以て処分される部分)は、組合総会の表決をまつてはじめて決定されるのであつて、右表決があるまでは、原告らは、整理施行地の不特定の一部について期待権を有するものと解すべきであるから結局、本件換地処分全体について無効確認の訴をなす法律上の利益がある。

次に、被告組合の組合総会の表決による換地処分が、耕地整理法第三一条に違反するか否かについて判断する。

成立に争のない乙第五、六号証ならびに検証の結果によると、検証をなした昭和三五年五月一八日当時において、被告組合整理施行地区中、東南部の地域には現にブルドーザーをもつて山を切り崩しその土をもつて谷地を埋める工事を行いつつある土地や整理予定地でありながらまだ整地工事に取りかかつていないばかりか数軒のバラツク住宅が建築されたままになつている整地工事未了地のあることが認められ、且つ右未了部分の地積が整理施行地全体の約八分の一に及ぶことが認められる。

以上の事実に成立に争のない乙第二号証、証人佐田市内、同中村信行の各証言を綜合すると、被告組合の組合総会の表決による本件換地処分のなされた昭和三五年三月一三日当時には、被告組合整理施行地区には前示検証時の整地未了地積を下らない範囲の土地が前同様の地勢、状況で整地工事未了の状態におかれていた事実が認められる。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。従つて、組合総会の表決当時、被告組合整理施行地は耕地整理法第三一条にいう整理施行地の全部について工事完了の状態にあつたとは解せられない。

そして、前掲各証拠を綜合判断すると、被告組合整理施行地中整地工事未了の部分が占める程度は、被告組合が、換地処分をなすにあたりその換地の位置、地積などの決定あるいは換地を与えないで清算金をもつて措置する土地であるかどうかの決定に影響を及ぼさざるを得ないと認められる程相当広範囲の部分に亘ると解せられる。

よつて本件においては、被告組合がなした換地処分は、その法定要件を欠如し違法であるが、右瑕疵が本件換地処分の効力に如何なる影響を及ぼすかについて考察する。

換地処分は、土地の利用を増進するために一定の地区内における土地の区画および形質を変更し、その結果不確定となつた工事施行地について、権利者の意思にかかわらず土地所有権またはこれに準ずる権利に交換分合その他の変更を加え、所有権その他の権利関係を確定する処分であつて、換地交付にあつては、従前の土地の地形、地積、位置などを標準として土地を与え、換地清算にあつては、一の土地に相当する土地の得がたい場合に金銭をもつて清算する処分であるが、いずれにしろ新しい土地が現実に造成されるまでは、被告組合規約第三一条第一項にいわゆる「従前の土地が整理施行により受くる利益の程度」もしくは同第三二条第一項にいわゆる「換地価額」あるいは「権利額」というものが定まらないから、換地処分をなす基準が存しないわけであるが、殊に本件は、整理施行地区内の山地を崩し、谷地を埋めて新しい土地を造成すべき部分が前認定の如く広い範囲に存する場合であるから、整地後の各土地部分の地形、地積、位置その他の価値が整地工事の完了をまたなくても明確であるとは解しがたく、本件換地処分にとつて、整地工事が完了しその対象たる土地が現実に造成されることが正に不可欠の要件であるといわなければならない。しかして右要件欠缺の瑕疵は、重大且つ明白なものであるから、本件被告組合の組合総会の表決による換地処分は無効と解すべきである。

被告組合は、被告組合が建設省より昭和三五年三月三一日限り解散して清算手続に入るよう指令を受けていたこと、および解散組合はその清算事務として残工事をなし得る旨の建設省通達を受けていたことにより、耕地整理法第三一条の整地工事完了の意義は緩和された旨主張するが、成立に争のない乙第一号証の記載内容によれば、右通達は公共団体施行の土地区画整理について、昭和三五年三月三一日以後も残務整理的事務の執行はなし得る旨を右公共団体に注意的に通達したものであつて、右は組合施行の土地区画整理についての耕地整理法第六〇条第二項に相当する内容のものとみるべく、右通達によつて耕地整理法第三一条の整地工事完了の意義が本件の如き工事進捗の程度にまで緩和されたとみることはできない。従つて昭和三五年三月三一日以後に残された整地工事が残務整理的事務として許される程度のものであるかどうかは右通達にかかわりなく客観的に判断されるべきであるところ、前認定のような整地工事の進捗状況である本件においては、前記日時以後に残された整地工事を残務整理的事務とみることはできない。

又被告組合は、本件口頭弁論終結(昭和三五年八月四日)当時には本件整理施行地全部の整地工事が完了しているから前示瑕疵は治癒されている旨主張するが、行政処分が無効なりや否やは行政処分のなされた時を基準として判断せられるべきであるから、処分当時無効のものが単に後の事情変更によつて有効となることはないと解すべきであるし、本件において瑕疵の治癒を認めんがためには、少くとも整理施行地が換地計画どおり現実に造成されること、および右造成された土地を対象として改めて被告組合が組合総会の表決により換地処分をなしたとしても、結局右土地造成前になした本件換地処分と同一内容の処分に帰着するものであることを必要とすると解するが、被告組合提出の証拠ならびに本件全証拠によつても右いずれの事実をも認めるに足りないから、本件につき瑕疵の治癒を考える余地はない。

なお、本件においては、公共福祉の保護の点を考慮しても前記結論に消長をきたすものではない。

以上の次第であるから、原告らの被告組合に対する本件換地処分ならびに特別処分の無効確認を求める請求は理由があるからこれを認容し、被告知事に対する本件換地処分ならびに特別処分認可の取消を求める請求は訴の利益がないからこれを却下し、訴訟費用の負担については、原告らと被告組合との関係ならびに原告らと被告知事との関係において、各民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安倍正三 宇野栄一郎 土川孝二)

(別紙目録省略)

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